「目隠しー」

「あー!おい見えねえぞ!」

「目潰しー」

「っぎゃー!何その秘奥義!?そんな軽い口調でこの威力はないわー!」

ぎゃははは!と賑やかな2人分の声とTVの音が混ざりに混ざっておれの耳に入る。リビングのど真ん中を陣取りポテチを食べちらかしながらコントローラーをほっぽりだしてじゃれ合いさも愉しげな二人をイスに腰掛け後ろからジッと見つめる。まさかこんなに早くなまえとルフィが打ち解けるとはさすがのおれでも思わなかった。

帰った途端「メシメシー!」とドタバタ家の中を駆け回るルフィになまえのことを何と説明しようというかルフィは玄関にある異様な小さい靴に見向きもしなかったのかよ、とおれが頭を抱えた時だった。なまえはいつの間にかとたとたと階段を駆け降りておりルフィが走って行った方向である台所に向かって行ったことにしばらくしてから気づいて慌てて後を追ったら、ぽかーんと口を開けたルフィの前で「エースの彼女ですこれから末永くよろしくおねがいします」 と深々と礼をしていた所だったのだ。その台詞はどっちかっつーとおれに言う言葉だよな…どっちかっつーとな。と、特に意味はねぇけど。

しかし順応性が高いというか単細胞というか、あれからの初対面でゲームをするかしかし…あり得なくねぇか?何でこんなに打ち解けてんだ?タッグマッチとか最高得点叩き出してんぞ?まぁ人を疑わないいい弟になったと言えばそうだが少し構えてもよかったんじゃねぇか?おおおれの彼女だってんだからよ。まだ紹介したことねぇしよ。しかも猫耳と尻尾生えてんだぞ?驚かねぇのか?「おまえスゲーな!どうやって付けたんだそれ!おれも付けてくれ!」って目を輝かしただけだぞ。根本的に何かが違うよな。

「エースぅーメシまだかー?」

「エースぅーお腹すいたよー?お腹と背中がぁー」

「「くっついちゃうぞー」」

お互い首を傾げながらハモりを合わせた後ギャハハハと足をバタつかせ再度沸き上がる二人。くっ…腹立つ!ズカズカと大股で二人の元に行き拳骨をお見舞いしてやった。ゴン、ゴンといい音がした。「いでー!」「ぎゃん!」と各々痛みを堪える為に頭を抱えた。いいザマだとふんっと鼻を鳴らしたがなまえの耳がしゅんと垂れ下がっているのを見てちょっと後悔してしまった。ええい負けるなおれ。

「なぁにが"くっついちゃうぞー"だ!夕飯の前にポテチは食うな!ルフィは宿題終わらせてこい!」

「えー!なまえはー」

「なまえは、…なまえは」

そうかなまえがいるもんな。どうしたものか、と頭を捻らせる。するとなまえも頭を捻らせる。それを見たルフィがニコニコしながらこれまた頭を捻らせた為二人のおでこにデコピンをかました。うーとかあーとか言いながらまた痛さにおでこを押さえる二人。なんで息ぴったりなんだよ。ちくしょう、なんだか妬けるな。

「なまえは…夕飯作るの手伝う係りだな」

「うえードラクエの旅を進める係りがいいー」

「ねぇよそんな係り!頭の中で進めとけ!」

ほらほら散った散ったとルフィを二階に誘導しなまえの腕を引いて台所まで行く。「うーえー」とヤル気が削がれるような間抜けな声を出すなまえを無視しおれは早速調理に取り掛かる為にエプロンをつけた。ルフィが腹を空かせて降りてきた時には準備万端にしてなきゃいけねぇもんな。

「エース!!やったね!ペガサス流星拳覚えたよ!これで銀河系最強のギルガメッシュ倒しにいけるわ!」

「待て待て待て待て。倒す相手が違うんじゃねぇか?まずはそこの鏡に写ってる奴を倒してこい。ギルガメッシュはそれからだ」

「合点承知の助」

脳内で進めていたらしいもうドラクエでもなんでもなくなっている。適当に目の前にあった鏡を指差し「そこに映る頭の弱い子を倒してたらいいことがあるぞ」と伝えておいた。こんな奴相手にしてたら何も進まないので軽く放っておいてさっさと腕捲りをしているとさっきみたいな萎んだ風船の様な顔を一変させまるで地球外生命体を見るように目を限界まで開きいつか見たスクリーンやらソフトクリームみたいな名前の映画に出てくる口をひん曲げた奴のような顔をしてこちらを見るなまえがいた。

「こえぇよやめろよ呪いかけんなよ」

「エース料理作れるんだ…」

「な、!失礼なやつだな!!こう見えて…、いや見たまんま作れるんだからな。もう見たまんまちゃっちゃーとな」

「それ熱々の鍋に手入れてあっちゃっちゃーの間違いじゃない?」

「ほんとに失礼だな」

なまえの失礼極まりない発言にキリリと顔が引き締まった。わざわざおれから一歩引いて上から下までまじまじと見た後「うーんなんだか変にエプロンが似合うね」なんてこれまた顔が引き締まる褒め言葉を言われた。嬉しくねぇ。

「夕飯は何にするの?」

「カレーかな」

「ほう…甘口でしょうね」

「あ?中辛だけど…」

「甘口でしょうね!」

「なんだよ辛いの食べれないのかよ」

「…ッハン!まさか!何言ってんの?そのミジンコ並みの脳味噌ではそんなことしか思えないの?」

「鼻で笑うなよ。そうかじゃあ中辛な」

「…!甘口でしょうね…!!」

「…そうだよ、あまあまな甘口だよ」

「よっしゃ!」

涙目で勝ち誇った顔をされてもなぁ。泣くほど嫌なら素直に中辛食べれないって言えよな。めんどくせーなんてことを思いながら今日は甘口にするかと考えるおれは本当になまえに甘いんだと思った。甘口なだけに甘い。はは笑えなかった。

トントントンと包丁を切るリズムに合わせてなまえの猫耳がひょこひょこと動く。制服のスカートの間からはスルリと伸びた尻尾がふよふよと動いている。──しかし一体何なんだこれは。どういうことなんだ。これを初めて目撃した時とは違い冷静に異様であるそれらを観察をすることが出来た、が観察したとこで分かるものは何もなかった。なまえに聞いても知らぬ存ぜぬもしかしたら大猫族の生まれ変わりかも地球滅亡まであとわずかなんて適当なことを抜かすだけで何も手掛かりになるような情報はない。いっそのこと病院に行って検査やらなんやらしてもらった方がいいのかもしれないな、オツムも含めて。

だけど、ちょっと感謝している。何故なら一時は"別れる"という決断をし、もう一緒にはいられないのかもしれないとかなしいかな決意したのだ。それを思えば今こうして一緒にいられることに対してこの猫耳やら大猫族やらよく分からないものに感謝の意を述べてやってもいいと思う。そこだけはな。こういうやり取りも出来なくなると思うと寂しくなるもんなんだな。

「何笑ってるの?」

「いや、べつに気にすんな」

「…何それ気になる」

ふいにニヘラと笑ってしまったのをなまえに指摘された。ジト目で見てくるなまえに意地悪で「エプロンが変に似合わねぇと思って」とわざとらしくおれより頭一つ分くらい小さな等身をマジマジと見た後に言うとなまえはムッと顔を強張らせ「セクハラ!」とおれのケツをパンっと叩いてきやがった。いてて、どっちがセクハラだよ、仕返しだっつの。気を取り直して料理は再開するもあることに気づいた。こいつ、全くの戦力外。いっちょ前にエプロンはつけたもののおれの隣で突っ立って味見と称してつまみ食いをするだけである。戦力外というより戦力激減である。その手癖の悪い手をパチンと叩くと「もうまたセクハラ!」と都合のいい解釈をされた。どうしたものか…

「あ!」

「?」

「やっべ忘れてた…」

「なに?」

「なまえ、冷蔵庫から豆腐取ってくれ」

「うん」

「冷奴、作ってくれ」

「…うん!」

冷奴、という言葉を聞いたなまえはパァと顔が輝いた。耳もピンっと立った。…可愛いな。たしか食べたいとか言ってたよな。ふんふんと鼻唄混じりで上機嫌になったなまえを見ながら手を進めた。

「切るでしょ?掴むでしょ?皿に載せるでしょ?醤油かける!」

「…!」

「ほら!わたしだって冷奴くらい作れるよ。よくみんなにおいしいって言われるもの」

「…!?」

「冗談よ、冗談だからその顔やめて。…泣きたくなる!」

「ホッ。そうだよな、よかった。これを人様に出してると思ったらびっくりしちまってよ…悪い冗談やめてくれよ、心臓に悪いだろ」

「…ふふ!(ぐすん)」

「ちょっと鼻水出てきた」と隅っこでティッシュを目に当てるなまえを他所にカレーは完成した。ちょうどルフィが「あー腹減ったー」とドタドタと二階から降りてきた。よし、飯にするか。四人分の皿を用意したらやっとこさ飯にありつけるな。あーなんか疲れた。

「あれ?エース、ひとり分多いよ?」

「ん?…あぁいいんだよ、これで」

頭上に?を浮かべるなまえ。おれはここにはいない一人分のカレーをよそいラップをして冷蔵庫にいれておいた。あいつ今日バイトやらなんやらで帰って来ないからな。あ、明日も確かバイトとか言ってたっけ。……。あー…そういえばなまえあいつのこと知らねぇか。学校違ったし紹介してなかったな。…なんか気乗りしねぇけど仕方ねぇか。

「、なまえ」

「ん?」

「あのな、実は」

「エース!なまえ!食べようぜ!」

「え、あ、うん!」

特に気にすることもなくひょこひょことルフィの側に行ってしまったなまえだったが、すぐにおれの元に戻ってきて「弟くんが呼んでるよ」と嬉しそうに笑っておれの服の裾をくいくいと引っ張ってきた。ふいななまえの微笑みに呆気に取られて気づいたら席に着いており、しまったタイミングを逃したと後悔したのは「「いただきます!」」とパンっと手を合わせた二人の声を聞いた時だった。

ま いっか、明日言おう。

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