「で、どうしてこうなったの」
「…………え?何が?」
わたしの問いにたっぷりと間を置いてとぼけた様に聞き返すエースは嘘とかつけないんだなと見てすぐに分かった。だって見てよ微妙に口角が引きつってるもん。そんなことを思いながらもわたしはエースの部屋のベットにぼふんと体を預けた。エースの匂いが、する。
「?何笑ってんだよ?」
「べ つ に 」
ニヤけてしまったのを指摘されてわたしは慌ててむっと口を紡いだ。エースはそんなわたしには気にすることなく「うむ」とか言いながらわたしの隣で胡座を掻き腕を組みながら何かを考える様に目を瞑った。うむって何。少しつり上がった眉がちょっと男らしいじゃないか。わたしが目を瞑ったエースの少し跳ね気味の髪を興味深く眺めながら次の言葉を待っていたら「まぁ、そのよ、そういうことだから」と歯切れの悪い言葉が返ってきた。
「その耳がどうにかなるまで、ここで一緒に住むことにする」
「は?」
「「は」じゃねぇよ。「はい」だ」
「そういうことってどういうこと?」
「しょーゆーこと」
「……」
「冗談だ」
こんな時に言うなんて寒い溝ができるだけなのにエースの神経は大丈夫なのだろうか。まぁいつものことなのでスルーしておこう。
「ていうか一緒に住むって何言ってるの?どうしてそうなるのよ!」
「だってよー!おまえの母ちゃんに言っちまったじゃねぇか!」
「あれはエースが悪いんじゃん!」
──そうなのだ。あの後エースがわたしのこの耳を見てしばらくの間唖然とし言葉を無くしていたらちょうど部屋の外からわたしのお母さんの声が聞こえ部屋に入ってこようとした為に焦ったエースがテンパってしまって何を思ったのか素早くわたしを抱えて「ちょっと娘さんをしばらくの間借りますー!」とお母さんが入ってきたのと同時に部屋から飛び出したのが前回のあらすじだ。
「ていうか…な、なにあれ。お母さんに絶対変なこと思われたじゃない」
「仕方ねぇだろ…、咄嗟のことだったんだ…。お母さんすみません」
やっちまったという顔をしているエースに「咄嗟であんな告白まがいなこと言えるんだ。ふーん」と悪態を吐いたら「う、うるせぇな。おまえだって母ちゃんにその耳のこと言ってないしバレたくないんだろ?」と猫耳を指されて言われればうぐっと黙るしかなかった。それは、そうだけど。「でも、」と渋るわたしだが「シャラップ!」と無駄に発音がいい声で制止させられた。
「とにかく!今日からしばらくはここで一緒に暮らすこと!その体だと色々不自由だろうからその耳が治るまでは面倒はおれが見る!」
「はぁ…」
「男に二言はねぇ!」
ふんっと声高らかに決意表明を露にしたエース。どうせエースのことだから今更になって後戻りも出来なくなったんだと思う。無駄に一途な男だ。
「…でも一緒に住むって同棲ってことだよね…?」
「!?」
ギョッと目を開けたエースがこちらを向いた。だんだんと頬が赤くなってるのは気のせいじゃ、ないよね。その反応にこっちまで緊張してしまって少し照れてしまった。嘘だ。少しな訳がない。心臓がドキドキ言ってる。
「…よ、よろしくお願いします」
「お、おう」
ギクシャクした会話と動作でお互い改めて挨拶を交わした。大丈夫、なのだろうか。
でも…ちょっぴり嬉しかったり
そんな思いも下からバタン!と勢いよく扉が閉まった音と「エースゥー!ただいまー!腹へったー!あれ?誰かいんのかあ?」という元気はつらつとした声に現実に引き戻された。ドタバタドタバタと煩くなったのを耳に入れながらわたしとエースが顔を見合わせた。
「…しょーゆーこと」
苦い顔をして学習しないエースの渾身のギャグは辺りを凍らすのに素晴らしい効力を持っていた。
そうでしたエースだけじゃなかった