ギィ…チャプ…ギィ…チャプ

船が軋む音と、波の音だけが静寂を破る。窓の外は真っ暗闇に包まれている。やはりこういう時は電気などの光が心なしか安心する。わたしも例外ではなく部屋の電気という電気をつけまくり、ベッドに体操座りをしてまだ来ない朝焼けを待っている。

倉庫掃除の一件からなんやかんやで無事床につくはずだったのだが、小心者のわたしがあんな話しを聞いて寝れる訳がなかったのだ。本当サッチちくしょう!

ベッドに入ってから何時間経ったのだろう…いかんせん目はギンギンだ。早く寝たいというわたしの気持ちとは裏腹に今にも貧乳を殺しにくるという幽霊を目に焼き付けんとばかりの目の開き方だ。

しかしこんなことをしていても寝れないだけだ、とため息をついた。ちょうどわたしは喉の渇きを覚えていたので、少し気分を変えようと食堂に向かう為部屋を出た。


外では月の光だけがこの真っ暗な世界を照らしていた。わたしは月の灯りを頼りに食堂まで行きついた。

ギィと扉を開くと昼間の活気づいた食堂とは裏腹に誰もいない、暗闇に支配された部屋が目に映る。わたしは何か飲み物を飲もうと冷蔵庫のあるところまで歩きだした。
すると冷蔵庫に近づくにつれ何か、得体の知れない音が聞こえてきた。ガツ…グチョグチョ…近づくにつれ段々と音が大きくなる。しかしまだ冷蔵庫は見えてこない。
逃げ出すなら今だとわたしの脳信号が警戒音を発する。しかし怖いもの見たさと言うもので足は少しずつ冷蔵庫のほうまで進む。

冷蔵庫が見えてきたと思ったらその扉は開いていた。そしてその目の前に誰かが佇んでいた。冷蔵庫の光が漏れ出し、その人物を照らしているがここからじゃよく分からない。

わたしはふと、サッチの話しを思い出した。まさか…もしやこの人は…幽霊…?とわたしは背筋に悪寒が走った。気づかれる前に帰ろう、とわたしが踵を返そうとした時、運悪くそこにあったら皿に手が触れガチャンと音をだしてしまった。

しまったと思った時には遅く、冷蔵庫の前に佇んでいた男はバッとこちらを振り向いた。

「誰だ!!」

「ぎゃあああああ!」

恐ろしさのあまり叫んでしまった。早く逃げなければ…!とわたしは一目散に扉に向かった。が、それは叶うこともなくガシッと腕を掴まれたわたしは勢いの余り尻餅をついてしまった。恐ろしさと痛さで未だに叫び続けるわたし。するとその男はわたしの口に手をやり、耳元で「シー!静かに…!」と言ってきた。ん?なんだか聞き覚えのある声だぞ?と恐る恐る後ろを向くと、そこには様々な食べ物を口に含んだエースがそこにいた。

「エース…?」

「なまえか?どうしてここに?」

やはりエースだった。わたしは安堵のため息を吐き、気持ちを落ち着かせた。

「どうしてもくそも…それはこっちのセリフよ!なんでそっちこそ」

わたしはそこでハッとした。前コックさんに聞いたのだ。夜な夜な冷蔵庫の中身が激減している、と。わたしは訝しげな目線をエースに向けた。

「おれか…?おれはだな…ちょ、ちょっと冷蔵庫の見張りだよ」

「見張り…ねぇ…」

じと目で見続けるとエースはあからさまに左斜め上に目を泳がせている。しかしモグモグという咀嚼音が辺りに響いている。

「お、おれも大変だぜ、こんな夜中まで見張りもな。誰がいつどこでどんな手を練って冷蔵庫を荒らすか分からねぇからな!」

「エース…苦しい言い訳はやめよう」

「…ハハハ…!なんのことやら!ハハハ!……………なまえ、絶対誰にも言うなよ。これやるから」

最初こそ笑ってたエースだかわたしの呆れた目線に気づいたのか途中から額からは汗が流れだし真剣な表情で懇願してきた。どんだけ必死なんだ。しかもこれやると言って差し出されたものは、生肉だった。

「よし!誰に言おうかな!」

チクる相手は誰にしようかなとウキウキしながらマルコの顔を思い浮かべた。

「冗談です悪気はないんです」

エースが土下座をしながら謝ってきたので心優しいわたしは許すことにした。

「つーか何でなまえここに来たんだよ?もしやおれと同じ…」

「それは断じて違う!ただ幽霊が怖かったから…!?」

ハッとして口を手で抑える。しまったと思った時にはこれまた遅く、目の前には笑いを必死にこらえたエースがいた。しまった…

「プクク!プククーク!なまえ、幽霊なんか信じてんのか!」

「エースさん口の中の食べかすがわたしの顔につくんですけど」

「ブフフフ!ゆ、ゆ、幽霊…!!」

「エースさん口の中の食べかすがわたしの顔につくんですけど」

爆発しだしたエース。大口開けて笑うものだから食べかすがわたしの顔に付着して気分悪いったらありゃしない。

「バラすぞ」

「冗談です悪気はないんです」

エースが土下座をしながら謝ってきたので心優しいわたしは許してあげることにした。

「幽霊なんていねぇって!大丈夫だ」

ふあーあと欠伸をしたエース。じゃあ部屋帰るわ、と片手を上げてわたしの横を通り過ぎようとしたので、咄嗟にズボンのゴムの部分を掴んでしまった。危なくケツが見えるとこだった。

「うお…!?どこ掴んでんだ破廉恥…!!」

エースは顔を真っ赤にしお尻を庇いながら反論してきた。

「だって…!わたしを置いていこうとするんだもん…!」

一人はイヤだ。一人になるくらいならエースのケツを見たっていい!
わたしは逃すものかと今だにズボンのゴムの部分を掴む。

「はあ?じゃあどうしろってんだよ…?」

「…エースの部屋行ってい?」

わたしの発言にブフッと吹いたエース。さっき以上に顔を赤くしたエース。乙女の反応だろそれ。

「ままままてまて…!おれ一応男だぞ…?男は狼なんだぞ…?いやおれは狼なんかじゃ決してないけど、だからその」

「大丈夫!襲わないから!」

「それこっちのセリフ!」

「減るもんじゃあるまいしいいじゃない」

「それもこっちのセリフ!」

あー!もー!うるさいなあ!じゃあサッチの部屋行く!と言うと、それはダメだ待て!とこれまた止められた。じゃあマルコ!と言うと、それもダメだ!とまたまた止められた。

「なんて我が儘な男なんだ君は!」

「なんでおれ怒られてんの…。…わ、わかった。いいぞ、おれの部屋に来い」

わたしが半場逆ギレしながら言うとエースは深いため息をした後コホンと咳払いをして了承してくれた。
わたしがわーいと万歳をしていた時、エースがおれ耐えれるかなぁ…とポツリと呟いたことをわたしは知らなかった。


幽霊に比べたらなんのその

(エースの部屋って初めて入るよね!)

(そーだなあー…(こいつおれの事どー見てんだよ、))



 

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