「それにしてもおかしい」

「ああ、おかしいな」

「なんでわたしが倉庫掃除なんかしなきゃいけないの?」

「おかしいおかしい」

「だよねー…やっぱりそう思うサッチさん?」

「ああ。なまえが潔くヤラせてくれないのはおかしいと思うぜ」

「あなたは何も分かっちゃいない!」


わたしは今マルコに罰として与えられた一週間倉庫掃除の刑をこなしている。しかし、倉庫は非常に汚い。それを女の子一人でやれなんて、この刑はあんまりだと思う。
そしてわたしの隣にヤラないかヤラないかと欲求不満も大概にしろと言いたくなるくらいの四番隊隊長のサッチが先程からそばにいる。見てるくらいなら手伝えこの野郎!

「もう邪魔なんですけど。埃と一緒に掃いてゴミ箱にぶち込んでいいですか?」

「え?ゴミ箱プレイ?」

「ダメだこりゃ!!わたしじゃなくてもあの妖艶なパンティ軍団(ナース達)がいるじゃないですか!」

「だってよーたまに一時の気の迷いで貧乳を抱きたくなるじゃねぇか」

「よーし歯ぁ食いしばれ」

わたしが握り拳にハァと息を吐いているとサッチは、悪かった悪かった心にもないことが口走ったと笑いながら謝罪の言葉を並べた。きっと心奥深くまで根づいた言葉なのだろう。

「ゴキブリは出るし、ネズミは出るし、サッチは出るし…倉庫最悪」

もうやってられるかと箒を片手に振り回す。しかしそのせいで埃がたってわたしの呼吸器管に入りゴホッゴホッと咽せた。涙も少し出てきた。そのどうしようもないわたしの馬鹿さ加減にサッチは指をさして笑ってきた。サッチも違う意味で咽せてやがる。この野郎!

「でも他にも出るんだぜ?ここ、出るんだよ」

「何が?」

「だから、出るんだって」

サッチはニヤッとした笑みを浮かべ両手をカマキリみたいに下げてきた。カマキリが出るからって何よ、と言ったら、違ぇよ馬鹿と言ってきた。失敬なサッチが馬鹿なんだと思う。

「サッチさん。主語を言ってくれないと分かりませんよ?パパとママに教わりませんでしたか?」

「ジェスチャーでわかるだろ!?幽霊だよ!ゆ・う・れ・い!」

「幽霊?それは怖いですねー」

ああ怖い怖いと言いながら、サッチが幽霊を信じていたことに心の中で嘲笑った。

「なまえ、一発喰らうか?」

「ごめんなさいすみませんもう何も考えません」

サッチが微笑みながら右拳を差し出してきたので直立して謝った。幽霊より怖いよこの人!

「ここの海域にはな、出るんだよ。海賊に殺され恨みを持った男がな、夜な夜な海賊船を徘徊するって噂だ」

淡々と話すサッチ。サッチの話しの上手さに引き込まれてしまった。ここは倉庫、静けさと暗さも手伝って、より一層恐ろしさが引き立つ。わたしは無意識にゴクッと唾を飲んだ。

「その男はな…海賊船の中を徘徊し、1人…また1人とクルーの部屋を訪問するんだよ。そして『忌々しい…忌々しい…殺せ貧乳を』と呟きながら」

「おかしいでしょ!?貧乳関係なくない!?」

「そしてな…その船で一番の貧乳を探しあてるんだよ」

「だから何で貧乳なの?喧嘩うってんの?」

「そいつが恨みを持ってる相手は貧乳だったんだよ。男は死ぬ直前、その乏しい谷間を見て死んだらしい」

憐れだよなーと言いながら笑うサッチ。貧乳だなんて思われてる方が憐れだよ。わたしは自分の乏しい胸を見下ろす。…うん、何も言うまい。

「明日の朝にはなまえは殺されてっかもなぁ…」

「やっぱりわたし限定なんだ!くそ!」

「怖いか?」

「こ、怖くない…!!」

「へーえ」

ニヤニヤとした笑みを浮かべご自慢の顎ひげを触るサッチ。無性に腹がたつ顔しているぞ。

「怖くなったらいつでもおれの部屋に来いよ。なまえならウェルカムだ!」

「輝かしいその笑顔の裏には何かがある。どーせヤる気満々なんでしょーが?」

「当たり前でしょーが。いいじゃねぇか、ヤッてれば怖いも何も感じねぇし?感じるのは快感だけだぜ」

そう言って腕を広げてわたしに抱きつこうとしてきたサッチを避け、そのご自慢のリーゼントに箒の先をぶっさした。そのせいでサッチは苦しみ悶えながもわたしを押し倒そうと必死だった。なんて欲求不満な野郎だ…!わたしは何とか押し倒されないよう必死にサッチから逃げた。

するとその時倉庫の扉が開き、わたしとサッチでそちらを見てみると、眉間にシワを寄せたマルコがそこにいた。マルコはわたしが掃除をサボってサッチと遊んでいたのだと解釈し、わたしたちにもう一週間の倉庫掃除を下した。サッチ込みで。
なんでおれまで!と渋るサッチ。貴様のせいだろ!

なんやかんやでその日は無事に床につきたかった

めくるめく夜の物語の始まり



 

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