知らない島にまで連れて来られたなまえはチンピラ風情の海賊たちを倒してから別の港を探すために島中を走り回っていた。しかし一向に海辺に出そうもなくお腹も空いた為街の中をぶらついていた。その際立ち寄った店にてカツ丼を食べようとして割りばしを口でパチンッと割った時、「海賊だぁー!」という叫び声が聞こえなまえはん?と思い、あ!と思い出した。そう…ガッツリ忘れていたのだ。自分が自称麗しく美人な賞金稼ぎだったということに。

そりゃ、海賊船に乗り雑用云々ばかりしていれば忘れてしまうだろう。だがしかしここに来る前はミッチリ賞金稼ぎをしていたのだ。「わたしってばバカね…」そう呟きなまえは自分の立場を忘れていたことを不覚に思いながらも声のした方に颯爽と走っていった。
後ろから聞こえる、「この食い逃げ野郎がぁ!」という声をBGMに、なまえ店を出る。まさかその渦中の海賊が昔捕まえようとして逆に返り討ちにさせられた赤髪海賊団とは知るはずもなく、なまえは苦い再会をすることとなったのだ─…。


「それにしても久しぶりだなあ、なまえ」

バクバク

「背伸びた?」

ゴクゴク

「前は出逢った途端襲いかかってきて武器じゃなくてネギを持ってたことに俺らだけじゃなくなまえまでビックリしてたよなぁ」

バクバクムシャムシャペリッカチャンザクッパクッモグモグ

「おーい…なまえ?」

ゴクンットクトクおかわり!モグモグゲプッムシャゲプッムシャゴフッ!ゴフッ!ッハ!フハッ!…パクパク

「なまえちゃん?」

「……何よ」

「いや、そのいい加減おれの話を」

「あのね、わたし食べてるの!見てわからない?分からないのなら、…貴様のつぶらな瞳はゴマつぶだ!!」

「つぶらなゴマつぶ?瞳はゴマつぶ?」

クワッとした勢いで口端に付いている食べかすやらなんやらを飛ばしながら豪語するなまえに圧倒されたのかシャンクスは副船長のベンに視線をやり「おれの目はゴマつぶらしいぞ」と何が面白いのかだーはっはっは!と高らかに笑う。一心不乱に食べ続けるなまえとその隣で胡座をかいて高らかに笑うシャンクス。こんな奇怪な現場に立ち会ってしまったベンは頭を抱えるしかなかった。そして当の目的をすっかり忘れているシャンクスにベンは再び呆れる。

「頭、」

「ん?……あぁ、そうだな」

ベンの言いたい事が伝わったのかシャンクスは笑うのをやめ真剣な表情でコックリと頷いた。

「実はおれはゴマつぶじゃない」

全く伝わってねぇよ、ベンは手持ちのグラスがパリンと割れたのを感じた。シャンクスは諭すようにそうなまえに断言したのだが当のなまえは"で?"という顔をしただけで食べる手を止めなかった。

「ふう…ごちそうさま。ゴマつぶにしてはおいしい料理を出したわね」

「…!まさかなまえからそんな褒め言葉が出るとは…!?」

「何よその顔?喧嘩でも売ってるの?あぁん?表でろやッ!」

「ハッハッハ!そういうところは変わらねぇななまえ!」

シャンクスは嬉しそうにバシンバシンとなまえの背中を叩いた。「痛い痛い!ちょっとやめて!貴様を蝋人形にしてやろうか…!」と背中を叩かれた痛さによりヤル気満々になってしまったなまえに「いや元気そうで何よりだ!」と場違いな返答をするシャンクスの天然が本領発揮した。

「じゃあわたし行くから」

「まぁまぁもう少しゆっくりしてけよ。久々の再開を楽しもうじゃないか」

「じゃあ行くから」

「まぁまぁいいじゃねぇか!ベン、デザート持ってきてくれ」

「了解」

「ぐぬ!物で釣ろうなんざ千年早いわ!……しつこい!行くったら行くの!」

なまえはしつこくナンパ男がするように絡んでくるシャンクスの腕をバチンパチン叩きながら押し返しドアに向かった。

「…そんなに急いでどこに行くんだ?」

「……どこでもいいでしょ、関係ない…」

「白ひげんとこか?」

確信をついたような一言。
"白ひげ"
その一言にビクリと過剰なまでに反応したなまえ。それを見逃さなかったシャンクスは不適な笑みでなまえを見据える。

「ビックリしたぜーおれは。何度誘ってもおれ達の仲間にならなかったあのなまえが白ひげの仲間になったって知らされた時はよ」

「……」

「海賊嫌いっつーかの人嫌いに近いおまえがまさかなって信じられなかったよ。どういう風の吹き回しだ」

「……」

「で、なんだよお前あいつらとはぐれたのか?はっはっは、本当なまえは迷子になるよな。きっとあいつら血眼で探してるんじゃないか?なんて…

「ちがう!!」

ダンッ!

力の限り机を叩いたなまえ。その衝撃で食器がカランカランと大きな音をたてた。突如豹変したなまえをシャンクスは少し驚いた様子で眺めた。その顔は髪に隠れて見えない。

「わたしはあいつらなんかの仲間なんじゃない!あいつら海賊なんかと馴れ合ってない!わたしとあいつらは…敵なの!だから!」

「だから……!」強ばった声で吐き捨てる様に捲し立てた後、絞りこむ様に出された言葉。堪えるようにぎゅっと右手を握るなまえ。シャンクスたちは何も言わずなまえを見据える。

「だから、わたしのことなんて探さないの…っ…!探して、くれないの…!」

ぽたっぽた、滴が落ち机に透明な染みを作っていく。

「…みんなに、会いたい…!」

悲痛そうに吐き出された言葉。その言葉を吐いた後なまえはくしゃっと顔を歪めたと思ったらまるで緊張の糸が切れた様に「うわああああん」と泣き出した。シャンクスはどうしたものかとしばらく様子を伺っていたのだが、そんななまえを放っておくことが出来ずそのちっちゃくなった華奢な体を何も言わずぎゅっと抱き寄せた。抵抗はない。ぽんぽん、とあやす様になまえの背中を叩く。となまえの腕がゆるゆると腰に回る。そんな些細なことに驚愕する。シャンクスの心になまえの温もりがじんわりと染みた。


─そうか、仲間が出来たのか


シャンクスはふいにそう悟った。そしてその仲間というのはなまえが最も嫌う海賊であることも。なまえは変わった。いつも一人で誰とも共に行動することのなかったなまえ。こんなにも海賊だけでならず人に心を許すなまえを初めてみた。そしてこんなにも素直な気持ちを述べるなまえを見えるとは思わなかった。


「わ、わたしね、ひどいこと言っちゃったの…!きっとエースもマルコもわたしのこと嫌いになったのよ…!」

「なぁーに、そんなこと謝れば許してくれるさ、あいつらなら」

「…そう…かな」

「ああ。次会ったら謝ってみろ、豪快に笑って許してくれるさ。海賊ってのは寛大な心を持ってるんだ、そんなちっちぇこと気にしてたりしねぇさ。きっとなまえがいないことの方がよっぽど気掛かりに決まってる。特にエースのことだオロオロしてるに決まってる」

「…そうだったら、いいな」

やっと笑った。その笑顔を見てホッと安心するシャンクスがいた。何があったのかは分からない。けどなまえの心の中で白ひげ海賊団はとても大きな存在になっていることは分かる。なんだか、白ひげの奴等には妬けるな。シャンクスはなまえの頭を撫でながら苦笑気味に笑った。

「で、デザートは?」

「え?」


嬉し寂しく


(いつまで撫でてるのよ離して!)

((やっぱり変わってないな))



 

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