「おいなまえ」 「んー?」 「もうすこしで雨降るぞ、多分」 「んー」 「だから干してる洗濯物とか入れねぇと濡れるぞって」 「んー!」 「…おい聞いてんのか」 「んーんー」 「…だぁー!うぜぇ!!聞いてんのか聞いてないのかハッキリしやがれ!」 「んー…」 ブチ クルーのみんなは各々自分たちの仕事をこなしているというのに…こいつは甲板でパラソルをかざしながら優雅に本を読んでやがる。 こいつは何様なんだ?さすがのおれでもブチッときましたよ?血管もブチッて言うよそりゃ? なので、おれはなまえが先ほどから人の話も聞かないで夢中になっている本を取り上げた。 「あぁ!ちょっと返してよ!」 「返してよじゃねぇ!おれの話を無視して本なんか読みやがって…躾がなっておらん!」 「なにおう!?エースこそ人の許可なく冷蔵庫から食料盗み取ってんじゃん!それは躾うんぬんの問題以前に人としてどうなんですか?」 「ゲ、ゲッフンゲフン…!それはそれ。これはこれ」 「…!クソミソエース…!」 なまえはキー!とか言いながらおれの手にある本を奪いかえそうと奮闘している。おれはなまえが猿の様に…いや…猿以上に必死になっている姿を見て、この本がどんな本なのか気になった。 「ちょ!見んなし!」 この筋肉雪だるま! とか言ってくるなまえの顔を鷲掴みして黙らせ、チラッと本の中を見ると『色気を学ぶ女性のワンポイント』と書かれてあった。 「なんだこれ?」 おれがそう言うとちょうど「おまえ…何してんだよい…」と言う声が後ろから聞こえた。 後ろを向くと顔を青ざめているマルコが立っていた。何て顔してんだよ、という疑問が頭に浮かぶ前に気づいた。おれがなまえの顔を鷲掴みにしていたのを忘れていたのだ。おっといけねぇ。 すかさずなまえの顔から手を離してやった。 このご恩は忘れねぇぜ…、なんて不気味に呟いているなまえを無視して再度本の中身を確認する。 「なになに?『色気で相手をメロメロにする為には』……ぶっ」 「はぁ?なまえが色気?無理だよい」 「買う本間違えたんじゃねぇのか?色気の意味を教えてやろうか?」 ギャハハハと笑う俺たち。 「う…うるさいなぁ!」 なまえは照れ隠しなのか眉間に皺を寄せぶーと頬を膨らましている。その顔はほんのり赤い。 ……そういうとこは可愛い。だがしかし、このご恩は倍にして返してやるぜ…、というなまえの呟きを聞いて前言撤回。 「わたしだってお…女だし?そういうの興味ない訳でもないし?…!で、でも別に色気ムンムンナイスバディになりたいとかそんなんじゃないからね!いやでもちょっとなりたいけど…」 「どっちだよい」 「まぁ現実と理想の違いをこいつなりに認識してんだよ、な?なまえ」 「そうだったのか…なまえも大人になったよい」 「殴っていい?ねぇ殴っていい?」 ホロリ…と感慨深く泣き真似したおれ達を見て、鼻をすすりながら拳を握るなまえ。 「まぁなまえには色気が必要だよい。そんな成りじゃ釣れるのは野良犬かエースぐらいだよい」 「え、?え?、の、ノラ?え、?人外?」 「はぁ!?おれはお前みたいな不審者女なんか眼中にもねぇよ!つか野良犬と同格だと…?」 「野良犬の方がマシ」 「あ?」 そんな時、頭上の方から、島が見えたぞー!という野郎の声が響いてきた。騒ぎだすみんな。そして、わーい島だぁ!と甲板を走っていくなまえを目で追いかける様に、遥か彼方に見える島を眺める。次は夏島かぁ… 「野郎共ー!島だぜ!夏だぜ!海パンだぜー!」 何を楽しみにしているのだろう、近くにいた奴等に絡んでいるが確実に1人だけテンションが違うなまえ。 おれはそんないつも通りのなまえに安心して、フッ…と笑った。 「『フッ…』、かよい」 「…………」 「『フッ…』、かよい」 マルコがおれの横にきて耳元でボソッと言ってきた。おれは恥ずかしさのあまり何も言えず、もう何も言わないでという様に両手で顔を覆い隠した。 マルコ…!あんまりだ…! 「あいつが気になんのかよい?」 「バーカ、前も言っただろ?違うって。あいつは…そう、妹みたいなもんだよ」 おれは、妹みたいに放っておけねぇんだよ、と言いながら鼻に指を持っていきヘヘッとはにかんだ。 「『ヘヘッ』、かよい」 「…………」 「『ヘヘッ』、かよい」 おれは恥ずかしさのあまり何も言えず、もう言わないでとでも言う様に両手で顔を覆い隠した。 夏島に上陸 (なんか雨降りそうだなぁ) (あ!洗濯物!) |