「エース、おまえまだ暗い顔してんのかよい。しゃきっとしろい。いい女は他にもたくさんいるよい」

「そうだぞエース!しゃーねーなぁ、ボインでグラマラスなネーちゃん紹介してやろうか?」

船の中を歩く度に言われる。何なんだこいつら。何なんだこのウザさ。いい加減、おれの堪忍袋の尾が切れる。

おれは仲間たちの仕打ちをこめかみをひくつかせながら耐えていた。

「よーうエース!振られたんだってな!まぁそんな辛気くせぇ顔すんなよ!な!」

年中無休陽気なサッチの一言によっておれの耐えてきた苦渋の時間は無に帰った。

「…!!振られてねぇよ!!何なんだよさっきからみんなしてよぉ!誰が誰に振られたってんだ…!あぁ!?おれはそんな惨めに見えたのかよ…!…くっ…!」

なぜかみんなの悪意ある優しさが意味なく辛くて、勢い余って漢泣きしてしまう所だった。

サッチはオロオロしながら予想外なのだろうおれの反応に、マルコに向けてどうしようという目線をチラチラ送っていた。当のマルコは黙って無視。

「わ、悪かったって…、泣くなよ。ただ余りにも沈んでたからつい、な。どうかしたのか?」

「なんでも…ねぇよ…」

おれは一言そう告げると、みんなから離れる様に踵を返した。
サッチはやっちまった…!とでもいうような表情を浮かべ、マルコにどうしようと目線をチラチラ送っていた。当のマルコは黙って無視。



…昨日の夜、あんなに弱ったなまえを初めて見た。いつも気丈に振る舞っているなまえが、何かに怯えていた。…あいつ…どんだけ辛い思いしたんだよ…!

昔何があったんだ?なまえを怯えさせてるのは何だ?海賊が嫌いな理由は、それなのか?

「くそ…!」

こんなこと考えてもしょうがないのに、やり場のない苛立ちにむしゃくしゃした。
あいつを…未だに苦しめ続けているであろう奴等に怒りが込み上げる。

それと、気の効いた言葉さえ言えなかった自分にも腹がたった。あいつが欲しいであろう言葉を掛けることもできなかった情けないおれ。

ただ、あいつの泣き面だけは見たくなくて、あいつが味わった恐怖を少しでも和らげ様とおちゃらけただけだった。

「情けねぇ…」

おれは太陽の光を遮る様に、明るさから眼を逸らす様に、テンガロンハットを深く被った。


あいつは、おれ達と一緒にいない方がいいんじゃねぇか…?


ふと浮かんだ、疑問。

テンガロンハットを深く被った理由は、一つではない。


頭の中に渦巻く疑問

(あぁもう分かんねぇ!つーかなんであいつのことが気になってんだよ…)

(あぁ、同じ飯食って同じ船の下におれば情も湧くか)



 

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