「ようエ─ス。初夜の方はどうだったよい」

ニヤニヤとした憎たらしい…おっと、イヤらしい表情を浮かべてそう言ってきたのはマルコだ。何が言いたいかは分かっている。…はっ!くだらない。実にくだらないことを聞く!

「何も…ねぇよ…」

おれは遥か彼方の水平線を眺めながら、ポツリと呟いた。

「おいおい!男と女が同じ寝室でやることと言ったら一つだろ!? …繰り広げたか…?ワンダーランド」

そしていきなりズカズカと乱入してきて意味の分からないことを言ってきたのは他でもないサッチだ。こいつ絶対こういう話題にはどっかからか現れるんだよな。

「ワンダーランドもトレジャーランドも何も繰り広げてねぇよ!つーか何だよそれ!」

「え?何ってこう…男と女がなぁくんずほぐれになってだなぁ…「いやもういい。サッチお願いだからそこらへんで沈んできてくれ頼むから」

おれは、少し照れくさい様に手をワキワキとワンダーランドの説明をしだしたサッチに制止の声をかけた。…頼むから黙ってくれ。

「じゃあなんだよい。ただ寝ただけなのか?」

「……」




「エースの部屋わたしの部屋よりでかい。不公平」

入ってきて輝かしい目をしたかと思ったら、途端にぶすっとした顔になって文句を垂れたなまえ。異議あり、と右手を挙げて抗議してきた。おれに言うな。

「しょうがねーだろ。なまえの部屋、空きがなくて急遽物置部屋を空けたんだからよ」

「まぁ海賊なんかの仲間になるなんて思わなかったからねー」

おれはその言葉にドキッとした。そうなのだ、おれはずっと気になっていた、なまえが海賊を毛嫌いしていることを。まあ最近は前よりマシになってきたが、前なんて憎しみに満ち足りた目をしておれ達を見てたっけ。…気になる。だけどおれ海賊だし、聞いていいのか悪いのか分かんね。前も聞こうとして、やめた。

……

「じゃあわたしベッドで寝るからエース地べたね。お休みー」

「…なんだよそれ!おれの部屋だろ!?」

「お休みー」

「待て待ておかしいだろ!起きろよ!」

おれのベッドに優雅にも寝ているなまえの肩を掴みグラグラと揺らしてやった。

「う…!ちょ…!さっき食べたマンゴーらへんが出てくる…!熟して出てきちゃう…!」

「汚ねぇなおい!女かおまえは!」

「女ですけど何か?」

う…ぷっとか言って口を抑えたなまえ。…大丈夫だろうかこいつは。

「しょーがないなぁー…。はい三分の一」

なまえはゴロンとベッドに横になり少し広いおれのベッドの三分のニを独占して残りの三分の一のスペースをほれと指さしてきた。
…本当こいつは何も考えてねぇな。おれは、はぁとため息をつき、先ほどまでなんとなく悶々とした気持ちがすっかりなくなってしまっていることに気が付いた。

なまえに分け与えられたスペースにゴロンと横になり、なまえとは逆の方を向いて寝た。

「じゃあお休みー」

「お、おう……」


先ほどのことが頭をよぎる


「なぁ…」

「ん?」

「どうしてなまえ、海賊が嫌いなんだ?」

「……」

口をついて出た言葉。
なまえとは逆の方を向いているせいで、なまえがどんな顔をして聞いているか分からない。まぁそのお陰で聞けた様なもんだけどな。

「まぁ言いたくねぇなら聞かねーけど、な」

「…」

なまえは何も言わない。沈黙が続く。なんだやっぱ聞いちゃいけねぇことだったか…!そりゃそうだよな海賊に海賊嫌いの理由を話す奴がどこにいるって話だしな!やっべ、どうしよう!沈黙苦しい!

おれが内心ドギマギして焦っていると、今まで沈黙を守っていたなまえから、言いたくない訳じゃ…ない、と微かに聞こえる声がしてきた。

「あ?」

「…エースがこんなの聞いちゃうと、エースに悪い」

「?おれが?」

「…だって、エース海賊だし…海賊の嫌な話なんて聞きたくないでしょ…?」


なまえの顔は見えない。だけど、なんとなくわかる。おれに申し訳ないって顔してる気がする。多分だけど。こいつ馬鹿だな、おれに気ぃつかってやがる。

おれはなまえの気遣いに思わずプッと吹き出してしまった。

「な、なによ…!」

「悪い悪い。なんつーかおまえ馬鹿だなぁ。おれら海賊は嫌われてんの分かってて海賊やってんだからな?気にすることねぇよ」

「……」

「それにな」

おれは言いながらグルンと反対側、つまりなまえの方を向いた。そしたらなまえいきなりのことにびっくりしてやがる。

「世の中には悪い海賊なんてわんさかいる。そいつらのせいでどうなまえが傷ついちまったのか、おれたちには知る必要がある。おれらも同じ海賊だからな。」

まぁ聞いてどうにかできるって訳でもないけどな、おれはハハハッと乾いた笑いを浮かべ、頬をポリっと掻いた。

「まぁなんつーの。言いにくいなら無理して言わなくていいからな」

おれは今にも泣きそうな顔を浮かべて口を紡いでいるなまえの頬に手を置き、軽く撫でた。
するとなまえは重たい口を開き、「あのね…」と語りだした。

めくるめく長い夜の始まり

(わたしが、14歳のころの話でね…)



 

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