次になまえが目を覚ました時にはこれまた別の人の背中におぶわれていた。なまえは目を見開いた。そう、目を見開くのも無理はない。キッドよりも細く華奢なその背中はなまえには見覚えがあり馴染みのある背中だったからだ。

どっと押し寄せた安心感がなまえを包む。あ…、と思い肩を叩こうとするとふいに聞こえたハミングでその手を止めた。どこから途もなく聞こえるその音になまえは?を浮かべた。

だがその後なまえは息を飲む光景を目の当たりにする。

やっみーにかーくれっていっきっる…おれたちふーんふーんふんふなのさ…

なまえは肩を叩こうとした手をそっと…引っ込めた

歌っている。

何でこのチョイスなんだ。というか一番肝心な所を忘れてらっしゃる。なまえはとても大事な所を教えてあげたい衝動に駆られるも、声を掛けづらいこの状況にあくせくと苦しめられる結果となった。もどかしい!なんとももどかしい!

「なんだ起きてたのか」

「え?」

何事もなかったかの様にこちらをふり向きそう尋ねてきた先輩にビックリした。よし、たった今起きたふりしてさっきのは聞いていないフリをしよう。

何がもどかしいんだ?」

無理だ
しっかり声に出してしまっていたらしい。無茶ぶりをかますトラファルガーにえーと…と何て言えばいいのやら目を泳がすなまえに魔王トラファルガーの目線が突き刺さる。じっではなくクワッと。な、なんで凄んでいるんだ…?あまりにも目を逸らしたくなる。非常に困った。

「き、気にしないでください」

「…そりゃ言いにくいだろうな。おれの謹みある男らしい背中やうなじの匂いとか嗅いでたら、女なら誰だって変にやましい気持ちになるからな、仕方ない」

ふぅ…、と物憂いしいかの様に息を吐くトラファルガー。なまえは人間勘違いもここまでいくと、とても清々しいことを学んだ

「そうですね。妖怪にんげんを忘れるくらいですからね、言いにくかったです」

噛み合っている様で噛み合っていない会話。これはいつものこと。



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