「じゃあ…行くわ」 「お、おう…」 ぎこちない挨拶を玄関で交わす二人。なまえの寝言が空気をぶち壊したらしい。トラファルガーが背におぶったなまえを一度抱え直し蟹を持ち直してから歩きだそうとした時、当然の如く「!?」となったキッドに捕まった。 「おまえその蟹…!?」 「あぁ…まだ紹介してなかったなおれのペット」 「ほら挨拶しろ」と優しく蟹に話し掛けるトラファルガーにまたしても「!?」となったキッド。 「それはおれの親父が送ってきた蟹だ!!いつの間に盗んでんだ!返せ」 「おい手ぇ離せ!蟹ちゃんが怯えているだろ!?あーほら見ろ、片目取れた」 「やめろや!!」 そんな感じでしばらくの間蟹の奪い合いをしていたのだがまるで遊んでいるかの様に「ほーれほーれ」とヒョイヒョイ蟹を巧みに動かすトラファルガーにキッドはなんて男だと息を切らして負けを認めるしかなかった。 「ちく…しょう…!おいしく食べろよ…!」 「必ず」 そう言ってトラファルガーが背におぶったなまえを一度抱え直し踵を返そうとした時またしても「おい」と制止の声が掛けられた。まだ何か?と訝しげな表情を浮かべたトラファルガーだったが至極真剣なキッドに眉を潜めた。 「おれは、…なまえが好きだ。おまえには負けねえ。だけど今回は…おまえに任す」 「…ハッ、これからも譲らねぇから安心しろ」 皮肉を込めた 宣戦布告。キッドの言葉に少しだけ目を見開いたトラファルガーだがすぐさまもう用はないとでも言うようにその場を後にした。 すー…すー…と規則正しい寝息を繰り返すなまえを背におぶりながら、トラファルガーは今だ揺らぐことのない己の不甲斐なさを感じた。くそ、くそ、。キッドに言われた一言が頭を過る。 こいつが不安な時、弱っている時、一番に側にいてやれるのがおれでありたい。しかし現にそうであるのがトラファルガーではなくキッドだということに悔しさを感じないはずはなかった。しかし冷静にならなければと自分を諭す。このままでは目覚めたなまえにまた下らない八つ当たりをしてしまいそうだったからだ。それもそうだろう目覚めた直後に先ほどの愛のビンタなどされた日にはなまえは自分の存在価値を疑ってしまうだろう。トラファルガーは胸の内にある黒々とした嫉妬心を晴らす為に深く息を吸った後溜め息にも似た息を吐いた。 こいつは人の気もしらねえで寝てやがる すやすや眠るなまえを見て少しだけ心が軽くなった気がした。 余裕なんてのはなくてただ焦る (さてとコンビニでも寄るか) |