「さぁ思う存分こげ」

靴を変える為一旦離ればなれになる。一つ学年が違うため下駄箱は違う。なので靴を変えたら、駐輪場で再び出会うのがいつものこと。

そしてこれもいつものこと。自転車の荷台に腰を下ろしニヤリと先程の言葉を言い放つトラファルガー。なまえはへいへいと言ったあと「ふんが!」とまさしく女ではないだろう声をあげてペダルを漕ぐ。漕ぐ。ひたすら漕ぐ。

最初のうちはわたしが漕ぐ?普通逆でしょ?why、何故?と反論していたなまえだが そんな事で意見を変えるはずもないトラファルガーになす術もなかった。三回くらいからはもう慣れてしまった。さすが諦めが早くなったなまえ

「おまえ、女らしさ微塵もないよな」

「そうしたのは…!ハァ…どこの…どいつ…!ですか…!ハァ…」

声だけ聞くと卑猥だなと後ろで風にあたりながら涼しげにほざくこの人を振り落としたい衝動に駆られるなまえ。いつか必ず…!そんな決意を心に秘め自転車を漕ぐ。

トラファルガー先輩の家、と言ってもマンションだが、着いた時には足はガクガクで息は絶え絶え。ここでお疲れの一言でもくれればいいものを当の本人はスタスタとマンションの入り口に向かう。なんて薄情な奴だ!だがその手にはなまえの鞄がある。なんだ持ってくれるなんて案外いいとこあるじゃん!と思いたいとこだが、ただたんに逃げられないようにと鞄はただの人質なだけなのだ

二人でエレベーターに乗り込む。なんと言ってもトラファルガーの家は26階。そしてこの密室空間。普通の男女ならなんとなく…な雰囲気になりそうだが、いかんせんなまえの頭の中には『早く帰りたい』という思いしかなかった。

「おまえ正に帰りたいと言う顔してるな。顔から滲み出てやがる。」

「あ、気持ちが先走って顔に出ちゃいましたかすみません」

「そうか。そんなにおれの家に来たかったのか。安心しろ、そんなおまえの為に今日は自家製の練乳を大量生産してやる。」

「エレベーターとエスカレーターって間違えません?」

会話になってない会話を交わしながらエレベーターは26階を目指す。




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