胸の奥にある、小さなわだかまり。

それが少しずつ…拡がってゆく気がした。







目線の先にいつも居るのは、幼馴染みだった。

「…ルシウス。どうしてアンタはいつもいつも私の視界に入ってくるの」

「ごきげんよう、私の可愛い名前」

「挨拶するんじゃなくて質問に答えなさいよ、このデコっぱち」

身長は頭一つ分、ルシウスのほうが高い。昔は私の方が勝っていたのに本当、男の成長というものは狡いくらい早い。
先程から人の体にベタベタと抱きついてくるウザったいルシウスをベリっと引き剥がし、親指と人差し指でデコピンを食らわせた。

「名前の愛情は相変わらず刺激的だ」

「…うわっ、今の発言…気持ち悪い」

「程よいバランスが取れたデコピン…。さすが私の名前と言ったところかな」

「何が言いたいのか私には全く解らないし解りたくない。あぁ…どうして私、こんな奴の幼馴染みやってんのかしら」

隣で気色悪い発言を連発するデコ貴族。頭痛がしてきた。
ルシウスは黙っていればそこそこ良い顔をしている。黙っていれば…だけど。マルフォイ家は純血の名家だし当然お金もたくさんある。フェミニストだし女の子大好きだから基本優しい。本当に黙っていればヤツは王子様なのかもしれない。

…って、私は一体何を考えてんだろ。

軽く咳払いをして目線を逸らす。次に視界に入ったのは大きなクリスマスツリーだ。そういえば今日はクリスマスだったな。

「…ダンスパーティー、ルシウスは誰と行くつもりなの」

答えは解っている。ちょっとした意地悪のつもりだった。彼は毎年、マルフォイ家でクリスマスを過ごす。私も行ったことがあるからその豪華さは誰よりも熟知している。
でも今年は家に帰らなかった。

彼の婚約者が残ると言ったから。


「どうしたんだい」

ふざけていない、優しい色を帯びた声。白くて綺麗な手が頬を這う。振り払うことならいくらでも出来る。そうしてあげないのは自分が傷ついたと思いたくないから。
ルシウスのアイスブルーの瞳。お気に入りの人形とお揃いで狡いと我が儘を言ったことがあったっけな。

「別にどうもしないわよ。パーティーでアンタの気持ち悪い顔を見るかと思うと憂鬱だなって思っただけ」

「辛辣な言葉だな。でも名前からならどんなことを言われても心地よいさ」

「…アンタってマゾなのかしら」

キツいこと、結構言っている気がするんだけど。それすらアンタにとって快感の一つにすぎないのか。
それでも笑うルシウスは意外と好きだったりする。

「名前はどうなんだい?」

「一応出るわよ。シリウスのアホも参加するみたいだし」

残念がるかしら。
“私の可愛い名前があの男と一緒に参加するなど許せない”
そう怒りながら嫉妬してくれるかな。
そんなことないと解っていても私の心は少しだけ、そうであって欲しいと思っている。

私って馬鹿で狡い女だな。

珍しく黙りこんだルシウス。あれ…おかしい。いつもならここで何か言ってくるのに。小首を傾げ、頬に触れている手を離したとき…いきなり肩を掴まれ、あっという間にルシウスの顔が目の前に…。
何これ?え…あの…なんで私はルシウスにキスされなきゃならないの。

「んっ、っ…ちょっと…ルシぅ…す…」

「…名前…」

思いきりルシウスの胸板を押し、唇を離せばお互いの熱い吐息が重なる。

「一体、どういうつもりよ!いきなりこんなことするなんて…とうとう頭でもおかしくなっちゃったの!?」

「いきなりするつもりはなかったんだよ。だが…どうしても嫌だったんだ」

頭では解っているつもりだよ。キミはあの男の家に嫁ぐ身だ。ちゃんと解っている。

「名前の全てを欲してしまう私は、貪欲なのだろうか」

私の髪に口づけたルシウスは困ったように眉を下げて笑う。
狡いのは私だけじゃなくてルシウスもだった。

馬鹿でアホで変態で…時々、気持ち悪い発言をする幼馴染み。

それでも、誰かに取られちゃうのは私だって嫌に決まっている。

「そうね、貪欲すぎよ。全く下らないことでウジウジしてんじゃないわよ。…そんなことしている暇があるなら、さっさと私をダンスに誘いなさい。英国紳士の名が廃るわよ」

腕を組んで柄にもなく高飛車ぶってみる。そうでもしないと恥ずかしいからだ。目線を上げればルシウスはこの上なく嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

…やっぱり黙っていれば良い男だ。

「レディ、私のパートナーになっていただけませんか」

「…仕方がないわね」

差し出された手に自身の手を乗せる。ルシウスは当然のように私の手を握り、手の甲に口づけた。

こういう姿は変態でも様になるのよね。










お手をどうぞ、レディ
(パーティーのあとは勿論、キミを美味しく戴くとしよう)(誰が食わせるか!このアホっ!!)






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