2012 | ナノ

あつもりあつい


「扇子、貴方のでしょう」
「おやおや、探していたのですよ」

光秀はじっとりしている、とよく言われる。粘着質だとか、いつもあまり良い意味ではない。
まるで今日の空気のような、喉に張り付く重々しい、呼吸のしづらい、鬱陶しい、早く過ぎ去れと願うような、とにかくそのような性質だと兵たちが噂をしている。

「今年は特に暑いですからね。扇子がなければ暑さで倒れていたかもしれません」
「嘘ばっかり」
「帰蝶は命の恩人です」
「やめて」

じっとりと、夕暮れの風が流れる。空いた窓の向こうに夕日が沈んでいく。
西日が好きだと聞いたことがあるが、その青白い顔は全く日焼けをしていない。
その肌はひんやりと、真夏のうだるような暑さとは正反対の。

「私、夏は好きよ」
「奇遇ですね、私もです」

光秀はじっとりなどではない、しっとりとしている、と濃姫は思う。
優雅に扇子で扇ぐ姿を見て、そう思わずにはいられない。