2012 | ナノ

おやまでおどる


山の幸は海の幸に勝る。魚より肉だ。海草より山菜だ。
海なんて羨ましくない。

「と思っている時期が俺にもありました」

佐助は体育座りで縁側から山々を眺める。山々の向こうの海を眺める。

「完全に旦那の刷り込みです」
「失礼だな」
「旦那が肉だ肉だ言うから、肉の方が優れていると思っていました」
「分かった分かった、塩鮭が晩飯でいいか」

佐助は体育座りのまま転がり、幸村に思いっきりぶつかった。

「塩鮭もいいけど、俺様は生魚が食べたいの!」
「じゃあ今日は寿司屋に行こう」
「百円寿司は百円の味がするから嫌」

その内佐助は「新潟はいいよね海も山もあるから」とか言って、「お酒も美味しいし」とか何とか、「そういえばお館様に新潟のお酒を頼まれていたようないなかったようないたような」それで「ちょっと新潟まで行ってきます!」になるに違いない。
色々な理由をつけなくても、かすがに会いたいのなら会いに行けばいい。

「旦那も新鮮な魚を食べたくない?」
「いや、いい」
「そう?」

遠距離片想いほど面倒なものはないな。幸村はお土産の干物をかじりながらそう思った。