こなみでころぶ 波打ち際すれすれの、濡れては乾くラインを歩いていく。置いていかれた貝殻や海草や流木が足の裏を刺激して、不思議な気持ちにさせる。 長政は傘を持っている。白い、滑らかなレースのついた日傘。傘のちょうど真ん中辺りを掴み、わしわしと腕を振り回す。 「市!傘くらいさせとあれほど言ったではないか!」 市の足跡は波にさらわれて、長政の声は取り残された貝殻に吸い込まれていく。 市はそれほど速く歩いているようには見えないのだが、一向に近付く気配がない。白いワンピースから伸びる足が太陽に紛れて見えなくなると、幽霊に化かされたのだろうと思ったりもする。 歩けど歩けど追い付けず、長政は諦めて立ち止まった。ため息をつき、一度目を瞑る。 目を開けると、市と日傘がいた。いや、市が日傘をさして、長政の顔を心配そうに見つめていた。 「何だ、きちんと傘をさしているではないか」 「?ええ、長政さまがお倒れになったから、日よけに」 「どういうことだ?」 「長政さま、日射病で倒れたのよ…?」 迂闊だった。日傘を必要としていたのは自分の方だったか。 |