2012 | ナノ

はだしではしる


自転車のサドルが割れかけていることばかりに目が行く。ギイギイと漕ぐ足は太陽に焼けて、貧相な自分の足と比べると、

「ビーフジャーキーともやし、だな」

元就は頷き、その筋肉質な足を眺める作業に没頭する。ビーフジャーキーは聞こえているのかいないのか、時折デタラメな鼻唄をフンフンしている。
電線があるなら五線譜を描けたのだが、電信柱のひとつも見つからない海沿いの道をひたすら通るので、鼻唄はカモメとセッションしては波に消えていった。

ビーフジャーキーから水分が垂れてきた頃、ようやく自転車はブレーキをかけた。
コンクリートの階段を下りた先の砂浜に、一台のワゴン車とテント、友人たちが立っている。炭がゴワゴワと燃えて、まるで狼煙だ。

元就とビーフジャーキーは久しぶりに地に足を着けた。ビーフジャーキーは首から足から汗を垂れ流している。暑いからか舌を出して、本物の犬のようだ。
元就は買い物袋からビーフジャーキーを取り出し、鳥足ならぬビーフジャーキー足男に投げてやった。

「犬ぞり御苦労」
「乾物じゃなくて水分をくれ」

ビーフジャーキーが吠えたので、荷台に載せたままの買い物袋から炭酸水を出してやった。
地元の漁師から借りた荷台付き三輪車はギイギイ揺れていた。ビーフジャーキーはあっという間に炭酸水まみれになり、元就はみずみずしいビーフジャーキーを放置して、もやしの入った買い物袋を下げて友人たちの元へ向かった。