はだしではしる 自転車のサドルが割れかけていることばかりに目が行く。ギイギイと漕ぐ足は太陽に焼けて、貧相な自分の足と比べると、 「ビーフジャーキーともやし、だな」 元就は頷き、その筋肉質な足を眺める作業に没頭する。ビーフジャーキーは聞こえているのかいないのか、時折デタラメな鼻唄をフンフンしている。 電線があるなら五線譜を描けたのだが、電信柱のひとつも見つからない海沿いの道をひたすら通るので、鼻唄はカモメとセッションしては波に消えていった。 ビーフジャーキーから水分が垂れてきた頃、ようやく自転車はブレーキをかけた。 コンクリートの階段を下りた先の砂浜に、一台のワゴン車とテント、友人たちが立っている。炭がゴワゴワと燃えて、まるで狼煙だ。 元就とビーフジャーキーは久しぶりに地に足を着けた。ビーフジャーキーは首から足から汗を垂れ流している。暑いからか舌を出して、本物の犬のようだ。 元就は買い物袋からビーフジャーキーを取り出し、鳥足ならぬビーフジャーキー足男に投げてやった。 「犬ぞり御苦労」 「乾物じゃなくて水分をくれ」 ビーフジャーキーが吠えたので、荷台に載せたままの買い物袋から炭酸水を出してやった。 地元の漁師から借りた荷台付き三輪車はギイギイ揺れていた。ビーフジャーキーはあっという間に炭酸水まみれになり、元就はみずみずしいビーフジャーキーを放置して、もやしの入った買い物袋を下げて友人たちの元へ向かった。 |