お題 | ナノ

今だけすべてを忘れられたら、


「ほんの、少しの間でいいから」

孫兵が小さな墓へ向かって、そろそろ一刻になる。
ついてきた一平は何も言わない。黙って背中を見ている。

何とか虫の、何とかが潰れた。
名前は忘れてしまった。どんな虫だったかも、思い出せない。

「…ありがとう。帰ろうか」

一平にとってこの一刻は、永遠より長く、一刻より短く感じた。
寝る直前に虫の名前を思い出したが、起きた時には忘れていた。