お題 | ナノ

水に溶ける雪のよう


伏木蔵の小さな記憶など、桜に紛れて忘れてしまう。

「雑渡さん」
「何かな」
「やっぱり僕は、忘れないと思います」
「そうかい」

桜吹雪は本物の雪のよう。氷菓子は雪をすくったよう。そして秋を忘れ、冬が来る。

「忘れてくれるとありがたいのだが」
「絶対忘れません」

この冬のことを。

「雑渡さんが、僕の分のみかんを横取りしたことを」

伏木蔵の小さな記憶は、万年雪よりも根深い。