お題 | ナノ

大好きだった嘘じゃなかった


全てが過去形になる世界が来るなんて、かすがは知らなかった。
桜が小さな石を隠していく。
摘んだ花も、桜色に閉ざされた。

大好きだった。
嘘じゃなかった。

じゃあ今は?と笑って聞いてくる人は、もういない。
こんな小さな石に何を思えるだろう。
大きく蹴ったら、花びらも舞い上がった。

「俺様の墓に何してくれんのさ」
「うるさいっ!」

まだ声を思い出せる。
顔も、手も、全て。

「やっと回復したのに、そんな言い方ないんじゃないの?」
「…佐助?」
「はい、猿飛佐助です」

大好きだった。
嘘じゃなかった。
そして、まだ大好きだ。
全てが過去形になり、飛んだ石からまた全てが始まる。