お題 | ナノ

そして逃亡、悔いはない


「蘭丸くん、駄々をこねないで」
「本当に無理なんです、本当、濃姫様、勘弁してください」

いくら頭を下げて謝っても、濃姫は掴んだ手首を離してくれない。
綺麗に整えられた爪が刺さって痛い。

「たかが予防注射じゃないの」
「だからってどうしてこの病院に!」
「だって一番近いんだもの…蘭丸くん!」

病院の看板に目をやった瞬間、ほんの少し緩んだ握力を見逃さず、蘭丸は走り出す。
光秀に注射されるなんて、多分、インフルエンザになって三日三晩寝込んだ方がましだ。