お題 | ナノ

知らないくらいが丁度いい


都会にも畑があるのか、と覗いていたら、いかつい兄ちゃんがこっちを向いた。
いつきは慌ててフェンスから手を離し、スタートは兄ちゃんと目があった瞬間。

「いつき!」
「…え?」

どうして名前を知っているのか、加速を緩めて振り返る。
いかつい兄ちゃんは抜いたばかりの人参を幾つか、フェンスの向こうに放り投げた。

「食え」
「兄ちゃん、おらの名前呼んだか」
「さあな」

都会にも畑があるのが不思議で、また同じ道を通ると、そこは公園になっていた。
頬に傷のある兄ちゃんはどこへ行ったのだろう、と思いながら、ブランコを漕いで空を仰ぐ。
人参色の夕焼けと、泥のようなカラスが、夜の始まりを告げていた。