お題 | ナノ

虚空に祈る


酒に月が映る夜だった。

「素敵な和歌を一つ教えてよ」
「すてき、ですか」

慶次の酒量は、明らかにいつもの量を越えていた。
顔は真っ赤で、体を支える腕もどこか頼りない。
笑顔の端から、何かがこぼれ落ちる。

「とっておきの、そうだな、恋の和歌がいい」

月に涙が落ちた。

「なるべく幸せなさ、そんな和歌がいい」
「…ぞんじません」
「そっか」

慶次は月を飲み干し、涙も飲み干した。
そして、赤子のようにゆっくりと眠った。