まばたきすら忘れた 「あのお方は誰だ、竹中」 「新しい化学の先生じゃないかな、去年化学の先生が退任されたじゃないか」 面倒な始業式の校歌斉唱と校長先生の言葉を聞き流していると、ふと右端の男性に目がいった。 切れ長の一重、すらりとした立ち姿、身から溢れ出す気品。 「どこだい、僕には点にしか見えないよ」 半兵衛は眼鏡を上下させたり目を細めたり爪先立ちになってみたりしたが、その顔はちっとも見えてこなかった。 体育館の端と端だから仕方ない、かすがの目が良すぎる。 かすがはそんな目を、いつまでもいつまでもあの男性へ向けていた。 |