お題 | ナノ

水色シンフォニア


吹奏楽団に現れた彗星は、かすがと同じフルートだった。
今年のフルートは何故だか不作で、入る辞めるが一か月の内に何度も続いている。
今はかすが一人になってしまい、元々寂しい吹奏楽団がもっと寂しくなってしまった。

「毛利だ」
「かすがです」

毛利と名乗った彼は、楽譜の通りの演奏をする。
指揮棒など構うものか、ひたすら自分の中のメトロノームに従い行動する。

かすがは幾分か呆れはしたものの、その他は尊敬の眼差しを彼に向けた。
親睦だ、と吹奏楽団の皆でカラオケに誘い、マイクを持たせるとこれまた型にハマったリズムで歌を歌う。

「すごいな、毛利」
「……」
「どうした?」

一番と二番のほんの少しの間で毛利に話しかけると、彼はそれきり二番の歌詞を歌わずに立ちすくんでしまった。
ああそうか、一曲丸ごと覚えてしまうから、途中から入ることはできないのか。
毛利のメトロノームは狂わず狂って、くるくる回る。