お題 | ナノ

苦しまぎれの保留音


突然電話が来たものだから、驚いて保留ボタンを押してしまった。
このままでは気があると思われてしまう。
しかしこのまま電話を切ってしまうと、もし大事な用件だったら困ってしまう。
光秀はメールを使えない。

少し考え、保留を解除する。

「もしもし、ごめんなさい、間違えて押してしまったみたい」

光秀が何か言う前にすべて言ってしまうと、携帯は無言を返してきた。

「もしもし?」
「…帰蝶も、携帯を使うのが苦手なのですね」

言葉を確かめるように発せられた電子音が、何故か寂しく聞こえたものだから、来週の水曜にメールの使い方を教えることになった。

「ほら、苦手じゃないでしょう」
「そうですね」

メールはお互い三回に一回返事を返すか返さないかのペースで、その距離は保留音よりずっと近く感じるのは、きっと気のせいではないはずだ。