お題 | ナノ

暗やみに忘れた、


「済まぬ、探すのを手伝ってはくれぬか」

先までほやほやと頬を赤らめて床についていた顔は、まるで冷や水でも被ったかのようにさっぱりとしていた。

「ご先祖様の数珠を落としたようじゃ」

宴会の席で、誰かに見せびらかした覚えがある。
ご先祖様が目に入らぬか、が氏政のたった一つの主張だ。
小太郎に頼めば夜中でもすぐに見つけて取ってきてもらえる。
それでも、氏政は自分で見つけなければならない、と感じた。

たった一つの主張のための、小さな意地のために。