お題 | ナノ

甘くとろけて紡ぐ


長政に関する情報を織田家に流さなくてはならなくなり、市は重たい筆を掴んだ。
長政は裏表がないのだから、外に出す発言が長政のすべてと言っていいのだが、それでも市にしか知らない情報もあるに違いない。

最初の紙は、墨滴をたらしすぎたので捨てた。
二枚目は、三枚目は。

「何をしている」
「日記を、書こうと思ったの」

兄に知られたくないのは、長政の秘密ではなく、市の秘密。
色眼鏡に包まれた紙は、すべて浅井家に残された。