お題 | ナノ

事態は急変する


「何故我に固執する」
「固執だなんておこがましい、あなたは私の机にコーヒーをぶちまけたではないですか」

古典の問題集にひたすらホッチキスを打ち込む作業は、右手の親指の感覚をおかしくさせる。
用がある、と言ったのに、そんなことはお構いなしだ。実際、用はないけれど。

「そうですねえ、では、ちょっとお使いを頼んでもいいですか」
「何の流れでそうなる」
「コーヒーを貰ってきてください、昨日飲みそびれましたので」

ニヤニヤと光秀はシャープペンシルを回している。
一緒にホッチキスを持って働いてくれればいいのに。

「…分かった、濃姫先生よりいただいてこよう」

古典の山の向こうで、ガタッと音がした。
雪崩れに巻き込まれた顔は、眉を潜め、唇に手を当て、名前を繰り返す。

「帰、蝶?」