小さなワルツ 「…帰る」 「だめよ、長政様…熱が、あるのに…」 「いいか市、明日も必ず迎えに来る」 「うそ…」 「私が嘘をつくはずがあるか。必ず来い、そうだな、これを取り戻しにでもいいから、必ずだ」 長政は虚ろな瞳でテーブルに載ったオルゴールをひったくる。 一緒にいくつか物を落としてしまったようだがどうしようもならない。 何とか立ち上がり、ドアノブに手をかけ、一度しゃがみ、市の悲鳴を聞き、最後は光秀の車に乗せられて病院行きだった。 オルゴールを持つ手が、点滴と包帯でがんじがらめにされた。 鳴らすことのできないオルゴールは、長政の耳に鳴り響く。 |