お題 | ナノ
君とピアニシモ
とうとう踏み込むことになった市の部屋への入り口を前に、長政はスリッパでの足踏みを繰り返す。
手土産をなくした今、何と言ったらいいか、ノックもままならない体の震えが視界を揺らす。
「い、市!いるか!」
何とか発した言葉も小さく震え、ウザイというよりはダサイ。
そんなことをぼんやり、そう、ぼんやり考えていると、世界がどんどん右と左に吸い込まれ、どっと冷たい床に頬をつけていた。
市に告白した日を思い出す。
あの日も、体全身が震え、気付けばベッドの中にいた。
「長政様、起きた…?」
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