お題 | ナノ

ゆるやかなカルム


「…で?」

慶次がいらいらしているのがよく分かる。
後ろの秀吉と半兵衛がはらはらしているからだ、二人がいなければ分からなかった。

「みすみす見逃した、って訳?」

お市ちゃんを!あんなに近くにいたのに!
言われていないのにそんな言葉が聞こえてくる。

「長政、男は奪ってなんぼだよ」
「何を言っておる、慶次」
「いいや秀吉、長政の場合は奪わなきゃ駄目だったんだ」
「しかしだな…」
「まあまあ、二人とも」

そっと二人の間に手刀を差し込み、半兵衛は長政に微笑みかけた。

「それは長政くんが決めること、僕らが口を出すのは無粋だよ」
「なら半兵衛はどうなんだよ」
「奪うか、奪わぬか」

あの争いから何かいい案が浮かぶかと思っていた長政は、半兵衛の微笑みに無意味な口角の引きつりで応えた。
それが気に食わなかったのかもしれない、いや、絶対気に食わなかったのだ。

「僕だったら、奪うよ」