お題 | ナノ

指先メトロノーム


「いくらあなたでも、入れてあげられないの」

また門前払い。
濃姫の整った指が目の前で揺らめく。

「許してね」
「では、学校で配られたプリントを渡してほしい」
「…分かったわ」

かじかみ震える指で、押し込んだプリントの束を取り出そうとすると、突然の北風が、右から左へプリントを流した。
霜焼け同然の手が耐えられようか。

「すっ、済まない」
「手伝うわ」

カラン、と季節外れの下駄を履き、濃姫が寒空に躍り出る。
二階から覗く、潤んだ瞳と目が合った。