本物はわたしじゃない 綺麗さっぱり消えてから、たくさんの色を近くに感じた。 温泉旅館の金は、佐助を慰めてくれている。 蒼はずっとそばで、何も言わない。 探すのは紅、近づく夕焼けの色。 「伊達ちゃんは旦那といるべきだよ」 何も言わない蒼に、冷たく語りかける。 蒼は鈍く輝き、それでも沈黙を守っている。 「だから、ほら、早く行きなって」 まるでアールグレイのような穏やかな紅を見つけ、指をさす。 これで、ようやく役目を果たせた、とゆっくり微笑んで。 「馬鹿野郎、あれはお前の色だ」 「嘘だ、旦那のだよ」 「久しぶりにお前の入れたteaを飲みたい」 「一昨日に飲んだばかりでしょ」 「ほら、アイツも待っている」 アールグレイの中心でカップとソーサラーを振り回している、懐かしい顔。 直に桜も加わるだろう、小さな空間で。 佐助は紅茶を用意した。 アールグレイの葉を、こぼさないよう。 |