お題 | ナノ

覚悟はあるか


翌日、金にもその主にも会わず、冴えない顔をした人間が見送ってくれた。

「狐に化けられたな」
「でもお酒は本物だった」

助手席で本当に良かった、そうでなかったらあの旅館で一文無しになるまで潰れていた。
しばらく日本海沿いに進み、頃合いを見計らって東へ向かう、と蒼は地図を指差しながら教えてくれた。
目的地がしっかりしていると、安心してぐったりできる。

「…悪かった」
「何が」
「昔、知り合いと来た時はただの良い旅館だったんだよ」
「マジで?」
「ああ、マジだ」

あの幻想の二人を見たのは、佐助の思念のせいか。
だとすれば、わざわざ初恋の人を見せなくてもよかったものを。
青白い顔を少し赤らめ、運転席の真面目な顔を見る。

「お陰で、全部rememberしちまった」