お題 | ナノ

興ざめ


さっきまであんなに楽しみにしていた温泉だったというのに、今もう楽しさの欠片も見当たらない。
蒼の張った背中を擦ってやるが、蒼は何一つ反応を見せない。
その上自分の背中は自分で洗わなければならない。
散々だ。

温泉に二人肩を並べ、ようやく蒼が口を開いた。

「…あの女、誰だ?」

ずっと昔、佐助が愛した女性だった。
上杉謙信の忍として全てを捧げ、佐助には見向きもしない女性だった。

「その話をしたいんだよ、俺様は」

温泉は、温く、湯冷めしてしまう。
それでも佐助は、この温度に浸かっていたかった。