お題 | ナノ

とろける誘惑


蒼は細いフォークでロールケーキを刺す。
まるでナイフを通したように切れたロールケーキを手で拾い、口へと放り込む。

「何だか知らねえが」

一つ、また一つ。
佐助のはゆっくりと融けていく。

「とりあえず明日は大学、休まねえか」

始まったばかりの大学三年の春。
アパートの更新契約を済ませ、下にある駐車場を借りた。
車は銀の丸っこい軽自動車。

「…俺様、どこかへ行きたい」
「OK、まだペーパーだがな」

蒼はコルクボードに引っかけた鍵を指し、歯並びの悪さを見せびらかした。