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風吹き夜止む


遠く、声がする。巨大な城を覗くと、五つほどの少女がいた。大ぶりのかんざしがしゃらんと揺れ、前後に動かす足から草履が飛んだ。木の脇を縫い、中途で止まる。風は止まない。
少女は呆気に取られて大きな松の木を見つめた。見兼ねた風は木を揺らし、少女の足元に戻してやる。ふわり、漆塗りの草履が浮いた。

「ねえ、あなた」

風は呼ばれ、引かれ、形にならざるをえない。
からすみたい、と少女は言った。風はからすが何かを知らなかったので、引かれた手が離れたら消えようと思った。

「お礼にお唄を教えてあげる」

声は唄だと知った。先まで囀っていた軽い童謡とは違う、重たい旋律で、それでも先より嬉しそうに少女は奏でた。風は、引かれた腕から再び風になった。

風は何も知らない。知らないまま何年も経った。
明日、風は緋の華を摘む。それでも風は何も知らない。

唄を聴いた。