ログ | ナノ
小さな刺客の大きな死角


「おさむらいさん」

いつきが呼んでも、彼は振り返らない。

「なあ、お侍さん」

いつきが袖を引いても、彼は構わず歩き続ける。

「ちょっと、おさむらいさ――」
「おい」

痺れを切らして前に回り込むと、やっと彼は思い出したように振り返った。まだ後ろにいると思ったのだろう。瞬きの後に、そのまま体も後ろを向き、はてな、と顔を傾ける。今やいつきは真後ろに立っている。
ああ何か、おかしい。

(おさむらいさん、おらはここだ。いつでも見える方にいるから、見失わないでけれ)