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金糸、花を連ね


花は満開だった。足腰の成り立たなくなった老人の脇を支えながら、蓄えられたうんちくを思い出す。あれは八重桜、それはソメイヨシノ。一度、分かったように頷く。頷きが風になり、音もなく散り、外堀に溜っていく。桃色の流れをいっぱいに胸に留め、そこに、そっと、老人を置いた。また頷き、風が吹き、眉を潜めるか潜めないかの内に、くるり、小さな旋風が桃色を狂わせた。

あなたがいなくなっても春は来る、という話を読んだ。判を押したように、新しい季節の息吹が小田原を包み始める。赤い季節が、そう、まるで、あなたがいなくなっても。