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北国ロマンス


馴れ合いは不要ぞ。不穏な動きを見せれば殺して構わない。……大丈夫、市、躊躇なんてしない。

恐怖の対象であった兄に吐いた、最初で最後の嘘。
嘘を吐く気なんてなかった。確かにこの小刀を持って、その首をかっ切るつもりでいた。あのような、正義ばかりで中身がまるでないような男。

「市、寒くはないか」

肩を寄せあえば、指を絡めあえば、喉を突き刺す小刀は氷であったかのように融けていく。
今は兄に吐いてしまった嘘よりも、長政を躊躇いもなく殺せると思っていたことに強い憂いを感じる。