ログ | ナノ
他人事の独り言


立て、富松作兵衛。自らを奮い立たせるのは用意ではないことを、作兵衛は知っている。理性の糸が切れてしまえば楽だが、生憎自分はその才能がないらしい。地面に根が生えたように、自我がいつまでもしがみついている。
立つんだ、富松作兵衛。切れた頬が痛い。満足に動かない腕で血を拭い、先に目だけ向ける。富松作兵衛が自分でなければ、と思う。

砂の混じった口が気持ち悪い。

「泥を塗るのは壁だけだ、決めただろう」

浮かぶのは先輩の顔。呟いて、体を起こす。まだ戦える。明日は用具委員会で、西の塀を直さなければならない。