足が速くなって、逃げるのも速くなって、それなのに彼らは一定の距離で左門を追ってくる。昔から変わらない、伸ばした髪に手が触れそうで触れない、ほんの小さな空間を保ったまま。 ぎゅっとすべてを堪え、脇腹が痛くなっても走り続け、それでもこの空間は広がらず、埋まらず。座っても、ご飯を食べていても、呵責の隙間から必ず手が伸びてくる。 「厠行ってくる」 「さっきも行っただろ」 「行って、くる」 おい、と箸の置く音と、歪んだ食堂の隙間から伸びる手。肩を捉えて、振り向け、を主張する。 からくりの歯車をなくしたみたいに、左門はゆっくりと首を回した。 見慣れた顔。跳ねた髪。いつでもどこか不満そうな顔をしている、大真面目な友人。 何だよ漏れそうなのかよ、と今日も大真面目に言い放つ友人は、眉を潜めて助言を一つ。 「我慢すんなよ」 離された肩は軽く、放たれた体は青空の下。前を向いて走っても、振り向いても、友人を見つけて、また走り出す。 空は青くて、涼しくて、ずるい、と呟いたら泣けてきた。 |