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空の墨、空は隅


わたしには必要のないものだから、と渡された一枚の紙の重さなんて、風に吹かれて飛ばされてしまうほどなのに、どうしてこんなに重く感じるのか。括り付けるための穴の向こうに地面が少し覗いて、しっかりと立てているのか不安になる。
金吾は、立派な武士になりたい、と書いている。自分にそれほどの夢はあるだろうか。滝夜叉丸先輩は、嬉しくないのか、と言いたげな顔をしている。

「滝夜叉丸先輩のだと、とても効き目がありそうです」

だろう、と滝夜叉丸先輩は笑う。この人は、こんな薄っぺらな紙に夢を託すのを恐れているのだろうか。それとも、本当に叶えてほしい夢がないのか。どちらにせよ、そうやって笑うのがひどく寂しい。

自分の夢が叶うのが怖くて、金吾が立派な武士になれますように、と書いた。後から滝夜叉丸先輩は、欲のない、と言った。幾分かほっとした顔をしていた。滝夜叉丸先輩が幸せになれますように、と書いた自分の短冊は、川に流してなくしてしまった。