夕暮れが好き、と話したことがある。なかったかもしれない。多分なかった。 「別に夕暮れは好きじゃないんだけど」 「そう?」 否定には別段興味を持たない顔で、乱太郎は腕を引く。毎日話しすぎていて、何を言って何を言っていないか分からない。天の邪鬼みたいで嫌になる。 段々坂が急になってきたから、自然と無口になる時間が増えてきたけれど、静かな時間が怖いわけではなかった。怖いのは終着で、執着ではない。 「乱太郎、もう帰ろうぜ」 「きり丸に見せたいんだけどなあ」 「いつだっていいだろ」 明日だって明後日だって、一年後だって卒業してからだって。しょうがないな、と乱太郎はしょうがなさ全開の顔で引き返し始めた。 しょうがない。祝着なんて言葉、知らない。 |