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一歩の彼方


「僕、雨って好きですよ」
「俺も好きだなあ」

硝煙倉の中に入っているものを知っているのか、という視線は外からしかやってこない。兵助も三郎次も無頓着に作業を続けるし、土井先生は二人にそっと笑いかけている。

「何か時間の流れがゆっくりで」

こんな日なのに、梅雨に濡れた蜘蛛は巣の続きを張っている。兵助が解散、と言うまで、蜘蛛は働くのを止めない。

「俺も好きだ、雨。三郎次はどうだ?」
「嫌いではないです」

硝煙倉を閉めます、土井先生。暗い煙硝倉で丸付けをしていた土井先生が、お疲れさま、と言わんばかりに顔を上げる。

「わたしもだよ」

時間の流れがゆっくりで、夜を知った蜘蛛もようやく蜘蛛の巣作りを止めた。今日は温まって寝よう。それがいいですね、と頷いたのは、夢の中でだった。