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遥かなる夏至


図書室に通うと、よく笑う下級生だと分かった。よく悲しむ下級生だとも。

「俺もその本好きだな」

本にのめり込み、気がつくと風呂の鐘がなっている。そんな空間がたまらなく好きで、時間を見て見ぬ振りで自分をごまかし、最後の最後までそこに居座る藤内は、とうとう図書室の主に声を掛けた。
明らかに自分に声を落とされ、主は顔を上げる。先程まで本を捲る度にくるくる変えていた顔は、驚きの一点のみに集中されていた。

「この本、知ってるんですか」
「うん、去年の今頃、俺も読んでたから」

こんな太陽が長くなり始める季節に。何をするのももったいない気がして、結局いつもの場所に腰を据えて。

「お疲れさま、もう風呂の時間だよ」

頭に手をやり、先に図書室の戸を引く。先輩、と呼ばれて、応えてやる。
図書室に通うと、よく笑う下級生だと分かった。図書室にいると、情けない顔で笑う上級生がよく来ると分かるだろう。その本を読み終えたら、一番長い太陽を背に、ゆっくり話をしてみたい。