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ぶぶ漬け


自分を主張する手段として「不運」を持ち出したら、それは負けだと思う。左近は確かに不運だけれど、自分の存在意義がそれに偏ってしまうのは、何か違う気がする。
不運だとか不運じゃないとか関係なしに、伊作はすべてを受け入れて微笑む。数馬は、諦めたような顔で受け流す。乱太郎と伏木蔵は、不運を笑っている。

「そんなの、違う」
「わたしに言われても」
「あなたになんて言ってません」

手厳しい、と包帯の裏で微笑みが浮かんだ。
左近は左近だ、と何の悩みもなく言ってくれる級友の、夏の太陽が懐かしい。じっとりと沈んで粉っぽい保健室に漂うには、否定を右手にしっかりと抱き抱えていなくてはならない。その右手は、ぎゅっと、箸を握っていた。