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夕日の陰る前に


「水たまりが綺麗でずるいんです、と言ったんですよ」

10歳は侮れない感性を持っている。小さな指の先には、いつか穴掘り小僧が掘った穴の周りを囲うように、水が張っている。おそらく昨日の雨で、落とし穴が抜けたのだろう。
そうして離れ小島のようにあるべき場所に飛ぼうとすれば、穴に真っ逆さま。かといって、水たまりを波立てて進んでいくのももったいない、というのだ。

学校内オリエンテーリングは迂回に迂回を重ねて、いつまで経っても到着しない生徒たちを最後尾から追いかけている。そうやって立ち止まっていた伏木蔵をオリエンテーリングに戻らせ、一息ついたところで斜堂先生に会った。

「確かに綺麗ですね」
「斜堂先生もそう思います?」
「わたしの学級の子が美しいと思うものを、美しいと思わないはずがないでしょう」

穏やかな雨上がりの輝きに、土井先生も応える。そろそろ一番が到着した頃だろうか。