「新しいことを始めるのって、すごく勇気がいることだから」 伊助の手は休まないで動き続けるのに、先輩である三郎次の手はすっかり止まってしまった。だらりと下がった手は、何かを求めているのに何も掴めない、無力そのものだった。 「僕はできる限りの手助けをしたいんです」 初めての実習で不安がるタカ丸の手を握ったり、走り出す庄左ヱ門の背中をいつまでも見送ったり。夕日を見るように眩しく瞳を細め、笑っている。 火薬の点検が終わり、薄闇の空に伸びをひとつ。三郎次の口は知らず知らずの内に動いていた。 「それじゃあ、お前は」 「僕はいいんです」 分かっていたことだった。伊助は何も始めない。いつまでも出発点に立って、背中を見ているだけ。 それが伊助の決めた生き方だと思うと、三郎次は何も言えなかった。 |