ログ | ナノ
感謝の引き出し


ごめん、とよく言う先輩は、慣れきってしまったのか、笑顔で二三度繰り返す。ごめんごめん、螺旋のように繋がる謝罪の嵐に、図書室はぐるぐる巻き込まれていく。

「そういう時はありがとうって言うもんです」

後輩は人差し指を立てて、嵐をぴたりと止ませてみせた。指に巻きつくごめんの数を数えるのは難しくて、またごめんと言いそうになっていた。

「やってしまってごめん、じゃなくて、やってしまったけど助けてくれてありがとう、なんです」

謝りたくない変な自尊心なのかもしれない、と先輩は思う。後輩だって薄々気づいている。
けれど先輩は微笑んで、ありがとう、を口にした。